兵庫県釣連盟
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しおさい

ネンブツダイ 平成7年6月掲載

 

      海中の舞い娘ネンブツダイ

           磯釣り師には無用の美女?


 磯釣りをしていると、いろんなエサ取りにご対面して、その飽きることのない食欲の旺盛さ、しぶとさにはホトホト手を焼いて、脱帽させられる。

 磯釣りでは、仕掛け作りの前に磯上がりしたら、まずマキエをするのがセオリーとなっている。スプーンの親方のようなマキエ用のシャクで、海面に2〜3回アミエビやオキアミをまくと、青い海原が、さっと花が咲いたように一面赤くなることがある。ご存知のように、これはネンブツダイの集団であることが多い。6〜9月ごろに産卵する魚で、これからの磯釣りは、この軍団に散って下さいと手を合わせても、"生めよ増やせよ"とばかりに自然の営みに熱中する彼女?らには通じず、釣りの邪魔をさせられる。

 この魚は、和歌山方面では「アカジャコ」と呼ばれているが、海面までも赤く染める美しい姿から地方名も粋なものが多い。神奈川県では「トシゴロ」これは"年ごろ"からきたものだろう。鮮やかな薄桃色の肌、つぶらな目、アイシャドウを引いたような目の縦帯、眉墨かと思わせる薄黒いシマ、赤いハンドバックをぶらさげたような格好の胸ビレ・・・。確かに、すっかり着飾った娘さんである。

 富山方面では、どんぐり眼にハデな衣裳の歌舞伎の名優・市川団十郎をほうふつさせるほど華やかなところから「ダンジュオロ」とも言う。そのほか小娘魚、着飾った魚など、それぞれ美しい愛称をもらっている。

 またこの魚は、子供の面倒をみるのはおとっちゃん・・・嫁はんの生んだ卵を口の中でふくみ、無事に赤ちゃんが生まれるまで、大切に外敵から保護する子煩悩さ。卵をくわえたままだから、お腹が空いても、おいそれと、エサをとることもできないため、当然やせ細ってしまう。

 人間の世界ならさしずめダイエットしてエステティックに明け暮れる女性なら一石二鳥の効果があるのでは無いだろうか−。とにかくそんな子煩悩なおとっちゃんの事を三重方面では「シラカボ」「シカロ」と呼んでいるが、これは和歌山・和泉で「シカノウオ」と呼ぶのがなまったのかもしれない。

 こんな華麗な容姿にもかかわらず当の名前である「ネンブツダイ」とは、繁殖期になると、口の中の卵を動かしブツブツ呟くような音をたてるところから付けられたものだ。6月になると何んとはなしに、海面を群泳している様子が目に見えるようではないか−。

 磯釣りではネンブツを唱えてでも、この娘さんには出会いたくないものだ。


                                                     神戸荒磯クラブ   上田 佳明

カツオ 平成7年5月号掲載

 

  用心棒代は"エサ集め"    

      サメに付くカツオの群れ

"目に青葉 山ほととぎす 初ガツオ"−五月ともなると、江戸の名句が思い出される。その当時、鎌倉沖周辺で初ガツオが釣れ出し、初物が大好きの江戸っ子たちが飛びついたわけだが、当時としてはかなり高価な魚だったようで、次の川柳でそれが伺える。
「高いよと初出におどかす初ガツオ」−まずお客さんに、こいつは高いですよ、と納得させておこうというわけだ。

 ところで、この高価な旬の釣り方はというと、魚群を見つけ、活きのいいカタクチイワシをマキエに使って群れの足を止め、しかるべきのちに疑餌バリで釣り上げるのだが、テレビでお馴染みのシーンだ。

 この時の群れのタイプには、回遊するものと瀬付きがあり、人間さまと同じく、元気よく回遊するのは3〜4歳クラスのヤンググループ、瀬付きは老人ホームよろしく、老成魚の集まり。そしてその魚群をナムラと職漁者はいっているが、カツオには底ナムラと物付きナムラがあって、底ナムラは海面下に沈下している群れであり、物付きナムラは、様ざまな対象に魚群が「付く」こと。
 
 前途の瀬付きのほか、木付き、サメ付き、クジラ付きと多種多様−特にサメやクジラにくっついて回るのはギブ・アンド・テイクで、決して友達になったわけではない。要は彼ら(クジラ・サメ)のお目当てがカツオの群れが集めてきたエビやイワシだから。実態は上面をかすめ取る厚かましいギャング顔負けの計算がある訳だ。でもそこは自然界の仕組みの妙ともいうわけだが、クジラ・サメの横紙破りな大物が用心棒を引き受けてくれるお蔭で、カツオたちの天敵マカジキなどから身を守れ、結果的には共存共栄できるのだ。

 ちなみに、鎌倉時代から出始めたカツオ人気に、さらに拍車がかかったのは、こんな幸運があったわけ。それは天文6年(1537年)の夏。カツオ釣りの見物中の北条氏綱の船に、1匹のカツオが飛び込んできたそうな。これを見た家来たちが、ヨイショのつもりではなかったろうが ”戦に勝つ魚ぞ!” とその吉兆を喜び、その御武州(埼玉)の戦に大勝利以後、出陣に際しての祝宴では、カツオ料理が定着したとか。カツオにとってはまたとないPRになったわけだ。


    
                                                 神戸荒磯クラブ 上田 佳明

「ホッケ」 平成7年3月掲載

 

        浮いたり沈んだり
          
            ”人生いろいろ”
               
                 地で行くホッケ 
  

 
 激しく竿先を震わすアタリを見て、よく来た!とロッドを手に大きくカケ合わすと、ベテラン釣り師は、その感触で即座に魚種を言い当てる。そしてほとんど狂いなく正解が多い。投げ釣りの場合、カレイとアイナメが主体になるこれからのシーズンはちょっと慣れた釣り師なら、カレイとアイナメの区別は比較的簡単だ。
 
 カレイはずっしり重く、手元近くになってくると、ググーッと締め込んでくる特有の”快竿”がキャスターを魅了するし、アイナメなら頭を振り振りする抵抗がロッドを通してしびらせてくれる。そのアイナメのシーズンがやって来た。

 このアイナメの仲間でよく間違えられやすい魚に、尾びれの縁が湾曲しているクジメ(中部日本以南に分布)と、尾ビレが上下二葉に分かれているホッケ(主産地は北海道)がいる。日本各地の沿岸に分布しているアイナメは尾ビレの縁が直線になっているのが判別の目印だ。

 さて今回の主役は寒海のホッケ君だ。流転の人生さながらに幼少のころのアオボッケ時代は大群をなして海面を漂い、20センチくらいに成長したロウソクボッケになると今度は海底に沈み、二年目の春を迎える25センチ級になるハルボチットといわれるようになると再び海面に浮上、まるでイモを洗うなると、お互いもみ合うように旋回しながら泳ぎ回る、そして一人前のネボッケになると、またもや深く潜行してしまう。

 このころには、若いころのスマートな体型はどこへやら「腹の突き出た」ヤボな親父に変身してしまうのだ。こうなると食欲だけは大変なもので、ありとあらゆる小動物をパクパク食べ、ますます太鼓腹に拍車をかけるのだ。特に大好物はニシンの卵─かつてはカズノコ泥棒と嫌われたものだ。それそのはず、1匹の胃袋の中に一万粒以上のカズノコが見つかったこともあるとか、その罪ほろぼしでもあるまいが、ニシンの水揚げが減った今、ホッケが見直され、北海道の重要な水産物として大切に扱われている。

 ホッケはアイナメの仲間らしく習性も良く似ている。粘液でくっつき合った卵を岩の割れ目などに産み落とし、アイナメ同様に親父が生まれた卵をしっかりガード。やはりその卵を好物とつけ狙う悪い仲間の奪略と戦いながら卵に水を吹きつけたり、ヒレで新しい水を送ったりして立派に子供が生まれるよう、涙ぐましい努力を続ける。そうして生まれた幼魚が前出のアオボッケ。この魚はピリカ(アイヌ語で美しい)とも呼ばれる。手塩にかけた子供がピリカと呼んでもらえるとは、親の苦労も報われるというものだ。



                                                 神戸荒磯クラブ  上田 佳明

「ホウボウ」  平成7年2月掲載

   
    赤いヒレを広げて滑走
       ホウボウは"海底の吟遊詩人"


 
煮付けや塩焼きに、これからのシーズンは特においしいのが、ホウボウで、沖釣りで釣り上げると、薄紫がかった淡い魚体が大きな赤い不規則な胸ビレを広げて、まるで模型飛行機のように浮上してくる。水中ではこの美しい胸ビレを水平に広げて、まるで人間がパラグライダーに興じているように滑走して、海底生活をいかにも楽しんでいるような感じであるが、なかなか泳ぐのも達者のようである。

 頑丈な"スチールヘッド"の頭をふり立てて不器用そうにカラダをくねらせている格好は、まるでカナヅチ。むしろエビのような3本の胸ビレの筋を、カギの手のようにして海底をノソノソと歩き回っているほうがスマートであるし、ユーモラスである。

 この胸ビレは、ヒメジの仲間たちのアゴヒゲ同様に食べ物の味をしるため、人間でいうたら"舌"の役目と触手をかねている。したがって好物のエビ、シャコ、カニなどのご馳走をさがすのに役立てている。

 とにかくユニークなお魚だが、ホウボウというネーミングはどこから来たのであろうか─。それは海底でエサを求めてあちらこちらと歩くためとか、魚屋さんの看板に「方々」とあり、また頭が角ばっていて「方帽」、「方頭」などともいわれている。またウキ袋をふるわせてブウブウ大きな音をたてる発音習性からつけられたなど、諸説もほうぼうにあるようだ。

 そんななかで、島根県あたりでは、優雅に「コトジ」と呼ぶ。この由来はホウボウが両方の胸ビレを立て海底で静止している様子がいかにも琴の弦を受ける琴柱(コトジ)によく似ているところからきたもの。ともあれ見かけどおりのファッション性豊かな姿から想像できるように、非常に神経がセンサイな魚のようだ。

 産卵期は春から夏まで、卵の直径1ミリ以下。夏から冬にかけてチョコレート色した幼魚が湾内のあちらこちらで見られる様になる。これを専門に狙って釣る事はないが、マダイやアマダイ、ヒラメの外道に釣れる事が多い。耺魚者はもっぱら底引き網で大量にとる。

 夜行性でウロウロ歩き回ったりするが"海底の吟遊詩人"などというロマンチックな異名をもらっている憎めない魚である。同じ引き網でとれるカナガシラやカナドともよくにているが、ホウボウの胸ビレは大きく、うすみどり色の他に青く光る点やふちどりの美しさはホウボウ独特のもので他の仲間とは胸ビレを広げて見ればすぐ区別できる。

 ホウボウは頭をはじめ骨も太いため利用できる身の歩留まりが40%もなく大きさで値段を見積もると割高だが、白身の薄造りにすると納得する味といえるだろう。




                                                 神戸荒磯クラブ  上田 佳明

「カタクチイワシ」 平成7年1月掲載

        新春を飾る「田作り」は
              
              カタクチイワシの晴れ舞台


 ファミリー連れの釣りのターゲットとして、小アジ・イワシ・小サバは波止や突堤からのサビキ釣りのご三家だ。しかし小アジは別格として、イワシや小サバは、同じように針に乗って、引きの楽しみを味合わせてくれるのに、小アジのように丁重な扱いをされず、今流行り?のイジメに泣かされているケースが多い。というのも小サバは脂ものってないから食べてもまずいし、サビキに掛かると暴れて、仕掛けのトラブルが多く、最悪の時は仕掛けが台無しになって、新品と交換する羽目になることも。
 
 イワシはカタクチが多く、小型で見栄えしないし、数多く釣れて食卓をにぎわすこともなく、どうせ干物になって「イリコ」に変身するくらい──とバカにされているのだが、なにも釣り場に放置して無益な殺生をすることもない。釣り場のクリーン作戦にもマイナスだ。釣り上げた元の海へ戻してやればたとえ死んでいても、他魚のエサになるだろうし、臭気を発することもない。
  
 さて、そのイワシだが、今も昔も日本人にとって大衆魚ナンバーワンで、貝塚から発見される魚の骨の中に、マイワシ・カタクチイワシの骨が発見されている。マイワシは別名ヒラゴとも呼ばれ、体が非常に側扁(左右が圧縮されて平たい)している。そして体の背側に7個ほどの黒い斑点が一列に並んでいて、地方によってはロマンチックに「7つ星」とも呼ばれているが、戦中派には「7つボタン」の予科練を思い出す人も多いことだろう。

 一方カタクチイワシは口が下部にあって、下アゴは短く、上アゴは大きい。背部が黒く、セグロイワシともいう。

 食べ方は、マイワシはそのまま焼くか、桜干しとして加工されるが(子供の頃の弁当にサケ・タラコなどと並びオカズのレギュラーだった事が懐かしい)。それに比べ、カタクチイワシは骨がいく分硬く、オカズに不向きだがお正月になくてはならない縁起物「田作り」として新春を飾る。

 しかし、江戸時代にはカタクチの身分は相当低かったそうだ。藩の財政はすべて米が基礎であったため、イワシは食糧よりも肥料に回されて、少しでも米の収穫を良くしようとしたものだ。それが「田作り」の名前の由来。こんな話もある。かの有名な紫式部が、この下司魚のイワシを食べたところ、夫に後日それがバレ、なじられたそうだ。そこで紫式部は速攻の一矢「日本(ひのもと)にはやらせ給う、いわしみず、まいらぬ人もあらじとぞ思う」と詠んだ。これがもとで、イワシのことを紫(あるいはオムラ)というようになったという。

 このように日本ではランクが低かったのだが、欧米での評価は高く、アンチョビ(カタクチイワシの油漬け)として重宝されている。日本でも、その栄養価値が見直されイワシの料理専門店があちこちに開かれるようになって、表舞台でフットライトを浴びるようになってきた。




                                              神戸荒磯クラブ  上田 佳明

「ソイ」 平成6年12月号掲載

 大食漢ソイのシーズンです

    まるで着流しの野武士風

 瀬戸内海で季節風の雄叫びが、電線や、すっかり裸になった樹木を揺るがし、聞こえるようになってくると、カレイと共に人気スターになって登場するのが、沈船を好んで住み家にするソイ(ムラソイ)。もともと、この仲間達は北の海の釣魚としてなくてはならないものだが、このムラソイ…関西辺りでは「ガブ」と呼ばれ、またの名を「シオフキ」とも呼ばれる。魚体が塩を吹いたように見えるからそう言うのだろう。前者の「ガブ」は、一発でエサを呑み込む習性からきたものか。

 ともかく北海系らしく(除くゴマソイ)、その仲間達は地味なスタイルで、南国育ちのコーラルフィッシュのようなカラフルな体色とは無関係!およそファッション性には縁の遠い存在。サンゴのステージで、フットライトを浴びて美しく見えるチョウチョ嬢たちも、ひとたびライトが消えると一転、薄汚れた色彩に戻って哀れを誘うが、その点ソイたちはいつも普段着、映画やテレビに登場する着流しスタイルの野武士を想像させる。そして「武士は食わねど高楊枝」の、へんな気取りもなく、沈船や岩陰からエサが落ちてくるのを待ち構え、一気にガブっと食いつく。こういう具合だから船上ではロッドをのされた釣り人が顔色を変えて竿尻を腰に当て「こいつは大物」とリールと共に悲鳴を上げる一瞬である。このような大食漢のソイ君も、水族館の水槽に捕らわれの身となると、エサの時間が決まってしまって「俺は夜行性だ」勝手なセリフを吐いてはオマンマの食い上げ…その結果、野武士のたくましさはどこえやら給食時間に合わせ、海の習性?を失うから面白い。

 それにしても最近ではペレットなど集魚用のネリエがいろいろ開発研究されて市場に出回っているが、自然のフィールドで美味な小魚たちをエサにしていたフィッシュイーターたちにとっては、大いに迷惑なことだろう、と思うが、栄養学的にはお魚にも"百薬の長"と言われるアルコールを飲ませたら良いと言う意見もあるそうだ。そうなると人工的なエサに混ぜ合わせて喰わせ続けると、アルコールの味をしめた大物が釣れるようになるかもしれない。コイなどはかなり以前からエサのサツマイモやその他のダンゴにナポレオン?を混ぜて、その香りで"集魚の効果あり"と当時の金持ちは高級品のブランデーを庶民はウイスキーをそれぞれ秘伝のものとして使っていた。海釣りにもアルコール入りのペレットが出回っているようだが、その効果がテキメンとなって大量に使用されるようになると"キッチンドリンカー"のような魚が現れてくるかもよ。さしずめムラソイならぬ赤ソイと言う新種が良く釣れるようになるかもしれないが、酔っぱらい天国は人間だけにしてほしいものだ。



                                                   神戸荒磯クラブ 上田 佳明




※しばらくお休みしていた魚珍愚ですが、過去記事の掲載を時期に合わせた方が良いと言う事でしばらく時期待ちをしておりました。今後は当時と同じペースの月1回で過去記事の掲載と現在の季節を合わせるような感じにしていきたいと思っております。

「トラふぐ」  平成6年11月号掲載

  左党にこたえられぬ魔力
           てっちりのシーズン来る 
                    庶民に高嶺の花


  "あらなんともな 昨日は過ぎて ふぐの汁"

   "ふぐ食わぬ 奴には見せな 冨士の山"


 前者は芭蕉で、後者は一茶の句にあるように、古くから日本ではふぐを食べていたようだが、中毒のイメージは今も昔も変わっていないようだが、味覚が優先をして特に左党にはこたえられない魔力を持っているのは確か。
 
 しかし人間ほど勝手なものはいないようで、関西ではふぐのことを、当たると死ぬと言う意味で「てっぽう」と呼んでいるが、あのNHKドラマ「澪つくし」で一躍有名になった千葉・銚子方面では「とみ」といって富クジのように当たらないことをもじっている。さしずめ昨今では「タカラ」ともじって、庶民の夢を絶望的?に当ててくれない宝くじか−。

 関西方面や九州方面では、ふぐの「安全パイ」のように言われているナゴヤふぐも、また季節によってかなり強力な毒を持っているのもいるらしい。尾張(終わり)名古屋にならないように気をつけたいものだ。

 こと程さように、種類によっては毒の強弱はあるが、まず身だけを食っておれば心配はない。問題は肝(きも)で、通になるとこれを食わないことにはおさまらないから始末が悪い。兵庫県では肝臓(きも)卵巣(まこ)その他の有毒な部分は販売してはいけないことになっている。そんなヤバイ橋を渡らなくても、肝を食いたいのならカワハギ(ウマヅラも)のもので代用していいのでは、スリリングなシビレ?はないけれど、味では負けていませんで・・・。

 ところで、10数年前にふぐの肝臓の成分を分析した結果、システィンというアミノ酸が含まれておりこれがふぐ毒のテトロドキシンの解毒剤に役立つことが分かった。このシスティンは食品添加剤に使われているので、いずれは研究されてこれのお世話になる左党も現れるのではないだろうか。

 さて、ふぐ中の王様とも言うべき虎ふぐ、いよいよ旬のシーズンを迎え、トラキチの期待に、少々高嶺の花になるけれども、味は一番「アテ」になることには間違いがない。それに引き換え、今年の阪神タイガースは情けない。ライバル巨人が命からがら栄光のゴールイン。あの虎フィーバーも昔々の物語になってしまった。期限切れの名門球団なんて魅力がない。来年こそは、今度こそは・・・野球のトラキチの悲願に「テッポウ」よろしく大当たりしてほしいものだ。ほんまに毒気を抜かれたトラふぐなんて、魅力おまへんで。

 ちなみにふぐを釣った仲間から回収して、持ち帰り晩酌の肴にして「ああ、うまかったわ。お前も一回食べてみいや」と釣行の度に尻込みする釣友をからかい半分、いまだに健在で、富くじを地でいってるふぐ好きがいる。それには一同さまに毒気を抜かれた気分である。




                                                          神戸荒磯クラブ  上田 佳明
 

昔は庶民に親しまれた出世魚「ボラ」 平成6年10月号掲載

 

    イナセなおアニイさんの由来にも


 "食欲の秋"といわれているように、秋は食べ物がどっさり獲れて、山の幸・海の幸は市場やマーケットに所狭しと並んでいる。恰好良くなりたいと老いも若きも涙ぐましいダイエットをしてる女性たちにはニクイ季節ですが、とにかくうまい物が胃袋を刺激するのは確かです。
 
 おサカナの世界でもシュンといわれるものが多くなってくる。例えば秋サバのように、嫁に食わすな!といわれるほど、脂の乗ったサバはおいしいし、落語に出てくる"目黒のサンマ"のように、将軍家光が太鼓判を押したといわれるサンマの味覚など、往年なら夕飯に七輪(関西風はカンテキ)の炭火で焼くサンマの煙が、細くて長い長屋の路地裏にたなびき、家路へ急ぐ人たちの空腹を直撃したものだ。

 さて、以上の魚にも負けないほど美味なボラが意外と低評価なのに驚く。特に京阪神の人たちはキラウのだ。食わず嫌いか?それともその食性(ドロの中の虫をドロごと食べる)からか、頭から"クサイ"と敬遠してしまう。ところがである…秋口から寒中にかけてのボラは、ササミやアライなど、あの魚の王様といわれるマダイにも匹敵するし、水炊きの材料にも逸品。

 一般にヘソと呼ばれる胃は非常に分厚く、形状がソロバン玉に似ているからソロバンとも呼ばれている。人間もこれだけ丈夫な胃をしておれば、胃潰瘍(いかいよう)にならないだろう。それはともかく、ソロバンをバター焼きにすると歯ごたえが十分あってビールなどのツマミによい。卵巣は「カラスミ」になり、徳川時代には三河(愛知県の一部)コノワタ(ナマコの腸)、越前(福井県の一部)のウニとともに、天下の三珍品といわれたそうだ。

 遊魚者が秋〜冬にかけてボラを狙うのは、なかなか風物詩的なものがムカシはあった。主役は大体突堤や河口で物干し竿より大きくて長い竿じりにレンガや石など結びつけ、手前の竿受けを支点にシーソーよろしくバランスを取りながら、竿先に2メートル前後の太い(10号くらいか)道糸、先端にギジ(スマイルに赤いオモリを赤いゴムのヒラヒラを付けたもの)をぶらさげ、竿先を上下しながら誘いをかけ、引っ掛けるのである。昔はドテラに手拭(タオル)でほほかむりがベテランのユニホームであった。それというのもほとんどが地元の人たち。

 ボラも出世魚の仲間で、3センチ以下をキララコ・10センチ級でオボコ・20センチ級でイナとなる。ギシエに掛かるころ、両目に指瞼が発達して30センチを超すようになるとボラも一人前といったところ。

 ところで江戸時代から庶民とボラのかかわりがいかに深かったかという言葉の由来を−魚河岸でイキな若い衆の間で流行ったという髪型が、イナの背に似ていたので"イナセなおアニイさん"や行き着く所までいってしまったボラの80センチ級をトドと呼び、"トドのつまり"が誕生したという。



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招かれざる刺客「ハオコゼ」 平成6年9月号掲載

 
   
   小ツブでも一家を構えるお兄さん


 酷暑が続く日本列島。9月といえども残暑はきびしい。見た目には涼しそうに見える海の沖釣り−白や青い色のテントが波まかせに揺れ、潮流に乗ってゆらゆらと大阪湾や播磨灘をにぎわす乗合船の五目釣り。初秋の風物詩ともなっている。

特に今のシーズンは自然界でも食欲の秋。魚たちも越冬準備のために体力増強が肝心な時、エサを探しに忙しい。エサ取り名人の異名を持つベラといえども、この時期ばかりはいとも簡単?に釣れるところから、釣り人の間でも人気が高く、休日には会社グループやファミリーでにぎわう。この釣りはキスと違って磯場や小石底がポイントになるため、ガシラ・アイナメなど、いろいろな種類の魚が釣れる、いわゆる「五目釣り」の楽しさがあるが、その中には招かれざるお客さんもいる。

その一つにハオコゼという チビッコギャング がいるのだ。体長わずか6〜7センチだが、なんといってもオコゼ一家のなかでもハオコゼ科という、独自のグループを形成しているお兄さん−オニオコゼやオニダルマオコゼほどの猛毒は持っていないが、背ビレのハリの基部に毒腺があって、刺されるとひどく痛むのでうかつに手で掴まないように、慣れるとすぐに見分けがつくが、ガシラのミニとよく似ているので、初心者や子供さんは要注意だ。

そこで見慣れない魚や、おかしいぞ!と感じたら、魚バサミで掴んでハリを外すか、船頭さんに確認してからハリ外しをすることだ。いくら用心していてもチクッとやられることがある。それは、こういうケースだ。「わぁ、またハオコゼや」とハリスにぶらさげたまま、面白半分振子のように回して手元が狂って、周囲の人たちの腕や背中に魚が当たって運悪く毒剣が刺さることがある。薄着の季節、ムキ出している部分も多いから暮々も悪い冗談はやめることだ。

腕の一部に毒針が刺さると ズキン! と肩口まで痛みが走り、釣りどころではなくなる。もし不運にも一刺しやられると、現在のところ有効な解毒剤がないから困ったものだ。そこで応急処置という事になるわけだが、自分の小便(アンモニア)をかけるか、温水に浸し、傷口を吸って毒を吐くことだ。またアイゴと同様にハオコゼの目をすりつぶしてそれを患部に付けると効果があるといわれているが、その機会もないので真偽のほどは確かでない。

満潮時に刺されたら干潮まで痛む…という、古老の話もあるので用心にこしたことはない。このハオコゼは釣り人の間でもヒメオコゼと間違って呼ばれていることがよくある。「またオヒメサマや」と乗合船では耳にするが、本物のオヒメさんはウロコが無く、口は大きく斜めに開く異様なご面相だ。

ちなみにこのハオコゼを食べる?と美味しいという人がいる。ミソ汁のダシにするそうだ。今秋は機会があったら試してみたいと思っている。

                                   

                                                   神戸荒磯クラブ 上田 佳明

天然色美人の「シイラちゃん」 平成6年9月号掲載


姿に似あわず色気?より食い気


 なんやシイラか!どうも磯釣りマンや船釣り愛好家の間では評価の低いシイラ。ところが今はやりのトローリングやルアーマンの間では大変な人気で、メーター級が釣れているそうや、今年は面白いらしいで・・・てな具合で格好のターゲットと好調にルアー専門船もウハウハとか−。

さて、このシイラは世界の暖海の表層に住み、角張った大きな頭(特にオス)と頭から尾まで続く背ビレが特徴である。そしてもう一つ、生きているときのカラーが実に美しいのだ。水中では青と緑に光り、黄金色のヒレをきらめかせる様はまさに優雅なプロポーション。ところがである、ハリ掛り(ヒット)してからのファイトがまた、凄まじい。これが、ルアーマンをしびれさすのだろう。成り振りかまわぬ「美女の大暴れ」変な色気を想像させますなぁ。

日本海あたりのシーズンは5・6月頃から11月まで。南紀辺りではこれからか?初期のメーター級のジャンボを梅雨シイラ、盛夏の小さなのを盆シイラ、終漁期の大小とりまぜたのを秋シイラと呼んでいる。産卵は夏だが、その習性はまだ解っていないようだ。それにしても人を恐れぬ貧食さはあきれるばかりで、定置網の漁業者によると、同じ捕らわれの身となり必死に逃げまどう他魚を尻目に網目に掛かって死んでいる魚を食いあさって、網起こしが始まっても少しもあわてないとか・・・。

シイラの本場・山陰では物陰に集まる習性を利用して「シイラ漬け」というユニークな漁法があるそうだ。太い猛宗竹を束ねた長さ10メートル程のイカダを作りそのイカダを固定しておくと、イシダイやウマヅラハゲの子が寄ってくる。次いでシイラがノコノコと・・・。そこを巻き網で御用!にするわけだが、とにかくよく捕れるらしい。これに因んで、山陰では「マンサク」他の土地でも「トオヒャク」「テンホウ」「マンビキ」などと呼ばれている。

アメリカ沿岸では「ドラード」。生きているシイラのたとえようがない美しさを言ったもので、スペイン語の「黄金」の意からきている。これが英国ではイルカと同じ「ドルフィン」。イワシやトビウオなどを追いかけ回し捕食するのだが、その時に披露する「ジャンプ一番」の超美技からの命名かも知れない。

さて、美味派と不味派の両極端となるわけだが、多く捕れる夏は鮮度が落ち易く、秋が旬、他の季節は水っぽい。しかし釣りたてをすぐ洗いにして食べると結構いけた思い出がある。徳島県の古牟岐での体験だが・・・確か時期は9月頃だったと思っている。

ちなみに日本人が大好きなハワイでは、このシイラのことを「マヒマヒ」と言って高級魚扱いにしているそうだが、私はアイ・ドント・ノーです。ハワイには行ったことがありません。


                                                  神戸荒磯クラブ 上田 佳明